個人的なメモ

Tomohiro Suzuki @hiro128_777 のブログです。Microsoft MVP for Developer Technologies 2017- 本ブログと所属組織の公式見解は関係ございません。

.NET 6 の新機能 - ランタイムのセキュリティ脆弱性の緩和策

.NET 6 の新機能 の情報の目次は以下をご覧ください。
hiro128.hatenablog.jp 
 

ランタイムのセキュリティ脆弱性の緩和策

2021年の初頭に、.NET ランタイムのセキュリティ対策のロードマップが発表されています。

これらのセキュリティ対策は単なるセキュリティパッチではなく、ランタイムの構造に手を入れる根本的な対策を含んでおり、それらは .NET 6 以降にのみ実装されることとなっています。.NET Framework のセキュリティパッチでは実装されません。
github.com
なお、.NET 6 RC 1 では、以下の2つの重要なセキュリティ対策がプレビューとなりました。なお、.NET 7ではこれらはデフォルトで有効になる予定です。
 

Hardware-enforced Stack Protection(ハードウェア強制型スタック保護)

ハードウェア強制型スタック保護は、Intel の第11世代 Tiger Lake プロセッサに および、AMD Zen 3 プロセッサに Control-flowEnforcement Technology (CET)として搭載されているセキュリティ機能です。

x64 CPU のハードウェアに依存した機能ですので当然ながら、x64 プラットフォームでのみ有効にできる機能となります。

CET はシャドウスタック(コールスタックの「影(シャドウ)」となる第2の別のスタック)を使ってすべてのリターンアドレスを記録しておく技術です。x64 のアセンブリ言語で、CALL 命令ごとにリターンアドレスがコールスタックとシャドースタックの両方にプッシュされ、RET 命令ではコールスタックとシャドースタックの両方からリターンアドレスをロードします。

2つのアドレスが一致しない場合、プロセッサは制御保護例外(#CP—Control-Protection Exception)を発行します。これがカーネルにトラップされ、セキュリティを保証するためにプロセスを終了させます。

シャドウスタックはリターンアドレスのみを格納するため、追加のメモリオーバーヘッドを最小限に抑えることができます。
 
公式情報:
CET
Understanding Hardware-enforced Stack Protection
.NET 6 compatibility with Intel CET shadow stacks (early preview on Windows) 
 
 

W^X(write xor execute:書き込みと実行の排他)

W^X は、プロセスやカーネルのアドレス空間内のすべてのページが、書き込み可能か実行可能かのいずれかであり、両方はできないというメモリ保護ポリシーです。この保護機能がないと、プログラムはデータ用のメモリ領域にCPU命令を書き込み(データ「W」として)、その命令を実行(実行可能「X」、または読み取り-実行「RX」として)することができてしまいます。

W^X は、最も単純な攻撃経路を遮断します。この機能がない場合、その他のより高度な対策はバイパスされる可能性があるため、その他の対策の意味がない結果となってしまいます。W^X を導入したことで前提条件がそろったため、今後 CET のような他の補完的な対策を追加される予定となっています。

Apple は「macOS」の将来のバージョンで W^X を必須としています。W^X は、.NET 6 を搭載したすべての OS で利用可能ですが、デフォルトで有効化されているのは、Apple Silicon 上で動く macOS のみとなっています。.NET 7 ではすべての OS で有効になる予定となっています。

公式情報:W^X
 
 

C# 10 の新機能 - const および文字列補間

C# 10 の新機能の情報の目次は以下をご覧ください。
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const および文字列補間

プレースホルダーに使用する値が定数である場合は、const で定義された値にも文字列補間に使用できるようになりました。単純にこれは便利です。

さらに、下記コード1のように補間された文字列のすべての部分が文字列リテラルであることを認識できる場合、コンパイラは、コード2のように単一の文字列リテラルとして記述されていた場合と同じように最適化して IL に出力します。つまり、以下の2つのコードはどちらの場合も、コード2のように記述されたものとして IL に出力されます。

コード1

const string Greeting = "Hello";
const string GreetingName = $"{Greeting} .NET 6"; // const で定義する値にも文字列補間が使用できる
string result = $"{GreetingName}!"; 

 
コード 2

string result = "Hello, .NET 6!";

 

導入の意図

この機能はコードの記述の自由度を高めることとコンパイラの最適化による速度向上のための機能です。
速度向上については開発者は特に意識することなく、コンパイラで最適化が働きパフォーマンスアップします。
 
公式情報:
const and interpolated strings
String Interpolation in C# 10 and .NET 6
 
 

C# 10 の新機能 - 暗黙的な using ディレクティブ

C# 10 の新機能の情報の目次は以下をご覧ください。
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暗黙的な using ディレクティブ

コンパイラによって、プロジェクトの種類ごとにあらかじめ決められたよく使われる名前空間のセットが自動的に追加されます。
例えば、コンソール アプリケーションの場合、以下の名前空間が自動的に追加されます。

using System;
using System.IO;
using System.Collections.Generic;
using System.Linq;
using System.Net.Http;
using System.Threading;
using System.Threading.Tasks;

 
.NET 5 以前のプロジェクトを .NET 6 以降に再ターゲットするときに、暗黙的な global using ディレクティブは追加されないので注意してください(場合によっては、コンパイルできなくなります)
また、.NET 6 以降の ImplicitUsings が有効になっているプロジェクトで、この機能を無効にすると、例えば、暗黙的に宣言されていた、System 名前空間が宣言されなくなってしまい、アプリがコンパイルされなくなりますので、プロジェクト単位での有効・無効の変更時はご注意ください。
 
手動で、ImplicitUsings プロパティ を true または enable に設定することで、プロジェクト単位でこの機能を有効にすることができます。
.NET 6 以降をターゲットとする C# プロジェクトのテンプレートでは、ImplicitUsings は既定で enable に設定されています。

<PropertyGroup>
  <ImplicitUsings>enable</ImplicitUsings>
</PropertyGroup>

 

導入の意図

明示的に指定することなくその種類のアプリで一般的によく使われる名前空間が自動的に追加されるので多くの using 行が不要になり、ソースコードからロジック以外の要素を排除できます。
こちらも「ソースコードを簡潔にするための機能」です。
 
公式情報:
Implicit usings
.NET SDK プロジェクトの MSBuild リファレンス - ImplicitUsings プロパティ

C# 10 の新機能 - ファイルスコープの名前空間宣言

C# 10 の新機能の情報の目次は以下をご覧ください。
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ファイルスコープの名前空間宣言

1つのファイルにつき1つだけ使用でき、従来の中括弧({})を含めた3行の構文ではなく、中括弧を省いた1行の構文で名前空間宣言が記述できます。
なお、従来の3行の構文は名前空間を入れ子にすることができますが、新しい1行の構文は入れ子にすることができません。
ファイル内で定義されたすべての型の前に宣言する必要があります。

名前空間宣言は、最上位レベルのステートメントと互換性がありませんのでご注意ください。最上位レベルのステートメントは、最上位レベルの名前空間内に存在します。
 
「最上位レベルのステートメント」は C# 9 で追加された機能です。詳細は以下をご参考ください。
最上位レベルのステートメント - Main メソッドを使用しないプログラム | Microsoft Docs
 

導入の意図

通常使われる名前空間を1つだけ含むファイルの場合に、中括弧やインデントをなくすことができます。
一言で言えば「ソースコードを簡潔にするための機能」です。
 

新しい中括弧を省いた1行の構文
namespace MyNameSpace; // セミコロンが必要

class A // インデントを最小にできる
{
}

 

従来の中括弧を含めた3行の構文
namespace MyNameSpace
{
    class A // 無駄にインデントが多くなって読みにくい
    {
        
    }
}

公式情報:
File-scoped namespace declaration
File Scoped Namespaces
 
 

C# 10 の新機能 - global using

C# 10 の新機能の情報の目次は以下をご覧ください。
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global using

任意のソース ファイルに global using ディレクティブを追加するか、プロジェクトファイル(*.csproj)に Using Itemを追加することですべてのソースファイルで使用したい名前空間を、各ソースファイルで宣言されているかのように指定することができます。
なお、static 修飾子やエイリアスと一緒に使うことができます。
 

導入の意図

共通の using 宣言を1箇所に集約できるので多くの using 行が不要になり、ソースコードからロジック以外の要素を排除できます。
一言で言えば「ソースコードを簡潔にするための機能」です。
 

任意のソースファイルに global using ディレクティブを追加
global using System.Linq; 
global using static System.Console; // static 併用
global using E = System.Environment; // エイリアス併用

 

プロジェクトファイル(*.csproj)に Using Itemを追加
<ItemGroup>
  <Using Include="System.Linq" />
  <Using Include="System.Console" Static="True" /> 
  <Using Include="System.Environment" Alias="E" />
</ItemGroup>

 
公式情報:
Global usings
global 修飾子